リテールITの新潮流――広がり始めた「API経済圏」
モバイルファースト時代の到来
2010年を境にスマートフォンの出荷台数は日本、全世界ともPCを超えた。そのため、アプリケーション開発ではPCよりもモバイルでの利用を第一に考えてWebサイトの設計・デザインを考える「モバイルファースト(Mobile First)」の概念が登場している。
なかでもモバイル端末のビジネス利用で進んでいるのが、リテール(小売り)分野だ。
リアル店舗の「ショールーミング化」
グーグルが参加している「Our Mobile Planet」調査ではスマートフォン所有者の約30%以上がショッピングの初期段階で端末としてスマートフォンを利用しており、これがリアル店舗での「ショールーミング化」を促進しているという。
(「ショールーミング」とは、商品の購入を検討する場合に実店舗に出かけて現物を確かめ、その店舗では商品は買わず、オンラインショップで購入すること)。
つまり、ショッピングの始めにインスピレーションやアイデアを探しながら利用したり、ショッピングの最中に製品を評価したり、ショッピングの後にレビューを書き込むのにスマートフォンを使うやり方が消費者の間で盛んになっている。
ソーシャルメディアから顧客チャネルへ
野村総合研究所の先端ITイノベーション部上級研究員の藤吉栄二氏はさらにスマートフォンの先進国・米国でのリテール分野での先進利用形態として金融取引チャネルを挙げ、その具体例としてアメリカン・エクスプレスとコモンウェルス銀行を挙げている(NRI「ITロードマップセミナー AUTUMN 2013」)。
これらの事例では金融企業の展開するソーシャルメディアは顧客とのコミュニケーションチャネルとしてだけでなく、ECチャネル、送金などの金融取引チャネルとして利用されるようになっている。
「API経済圏」の登場
藤吉氏はさらにリテールITのこの先にあるビジネス形態について「API経済圏」という言葉を紹介する。APIとはアプリケーション・開発・インターフェースのことだが、初期段階において自社だけで閉じた形で展開していた顧客チャネルやAPIを外部に公開すること。これにより自社が保有する顧客データなどのマーケティングデータを外部企業に提供し、ビジネスパートナーとして新しいサービスを開発・提供してもらう。
このような新しいビジネス形態が「API経済圏」とよばれるようになっている。
例えばYodlee社の事例だ。
同社はPFM (個人財産管理)サービス内での支払い、送金機能に加え、トランザクションの分析結果を用いたマーケティングデータを金融機関に提供している。
このサービスはシティグループ、JPモルガンチェース、バンクオブアメリカなど米国トップ10銀行のうち、7行が採用しているという。
APIで公開されるデータはグーグルマップだけでなく、ファイナンスデータなどコンシューマー向けビジネスへと拡大しており、各社が蓄積したマーケティングデータを共通利用することで新しいビジネス連携が広がろうとしているのである。
参考:
野村総合研究所 「IT ロードマップセミナー AUTUMN 2013」 藤吉栄二氏:リテールITの新潮流
Yodlee社 http://www.yodlee.com/about-us/